2012年08月26日

『太陽の牙 ダグラム』(後編)〜俺の描きたい男〜

 さてドン尻に控えしは独立戦争最大の功労者…主人公と仲間たちとダグラムじゃなくて、あのオッサンです。デスタンです。最終回、野望を達成寸前の悪玉ラコックを射殺し、ボンクラのカルメル氏を男にしてしまった憎みきれないろくでなし、コール・デスタンです。片羽は今回このオッサンのことを書きたくてここまで駄文を連ねて参りました。
 年の頃は30代後半から40代前半でしょうか。長身で筋肉質の体躯、眼鏡の下に神経質そうなオドオドした瞳…アムロ・レイの父ちゃんをたくましくした感じです。服装はといえばヨレヨレのジャケットにハンチング帽で、レジスタンスというよりは日本の左翼活動家をリアルに再現したと思われます。
 序盤、彼は主人公チームの若者たちの前に味方=独立運動の闘士として現れました。サマリン博士の下で長らく幹部クラスだったようで新参の若者たちを見下した態度の嫌味なオッサンだったのですが戦闘になると馬脚を顕し、算を乱して逃げ惑う駄目オヤジで若い奴等に呆れられてしまいます。次に現れた時など独立運動の劣勢にケツをまくって転向し地球側の工作員と化している始末。
 そんなデスタンが独立運動の幹部時代どんな役割を果たしていたのかというと、得意の弁舌を生かしたアジテーターだったようです。口だけ野郎と言えばそれまでですが組織のトップや前線の兵隊は実務に没頭して対外交渉や広報が疎かになりがちな中、求心力維持のためにはありがたい存在ですね。実際若き日(といっても数年前?)の彼が仲間と出かけた酒場で一席ぶったところ、純朴な踊り子の少女・リタに心酔されてしまったようです。
 このリタという少女、ストーリー中盤で主人公チームの旅についてきてしまいしばし行動を共にします。アニメには萌えがあって当然なければゴミ糞の今時の若い連中には信じがたいことでしょうが『ダグラム』の女性陣ときたら揃ってギョロ目で頬がこけてて体も痩せぎすで作品世界の殺伐さを助長するばかり(セイラさんやララアの後にこれはねえだろ、と片羽は思う)の中、リタだけが可愛い系の女性キャラで本当に荒野に咲いた一輪の花というべき存在でした。
 そんなリタの前に現れるのがデスタンです。どういう伝手かはわかりませんが地球側でもよりによってラコックに雇われており地球側と植民惑星側の全面衝突を引き起こすべく裏工作に勤しんでおりましたが、バッタリとリタに出会ってしまいます。リタ的にはデスタンの変節を知る由もなく今でも理想に燃える独立運動の闘士として尊敬してくれておりまして、デスタンがいくら追い払っても付いてきて挙句には「私と一緒に遠くへ逃げましょう」なんて言ってくれちゃいます。オッサン泣けてくる状況です。
 そのリタを些細な行き違いから拳銃で射殺してしまうデスタンですが、これで前非を悔いて改心すると思った貴方は甘い。このオッサン堕ちるところまで堕ちた我が身を嘆きはするのですが、今さら自分が改心することができないことも悟ってしまっているのです。できることと言えば苦い酒をあおるのみ。日本の映像文化史上こんな悲しいオッサンが他にいたでしょうか。いやいません。正直『太陽の牙 ダグラム』を『装甲騎兵ボトムズ』のプロトタイプとしかみなしていなかった片羽ですが、このシークエンスで『ダグラム』に痺れました。いや完全に。俺が描きたいのはこういう男なんだよ………!
 さてその後のデスタン。田舎に引きこもり金髪美女(これもイイ女っぽいがどうにもゴツい)のヒモになるのですが、彼女との新生活のため金を得ようと再びラコックにコナかけ。たまさか耳にした解放軍内部の不協和音をラコックにご注進し、これがサマリン博士とカルメル氏の離間につながるのです。そして前回述べた通り地球側優位での和平が成立しラコックが天下を制することになり………かけるのですが、ラコックの躍進を目にしたデスタンは更に彼を強請ろうと出向いたところ「寄生虫めが!!」と罵倒され、カッとなって拳銃でラコックを射殺します。
 折しも抵抗を続けるダグラムチームの処遇をめぐってラコックとカルメル氏が揉め、地球側と植民惑星側の軍隊が睨みあっていた最中の出来事。強硬に植民惑星の再支配政策を進めていたラコックの死で情勢は一変、惑星の独立は成し遂げられました。デスタン、意識的な行動ではないといえ見事。つくづく俺が描きたいのはこういう男なんだよ………!
 最前線で暴れ続けるダグラムを余所にラコックとカルメル氏とデスタンで物語の決着は着いてしまいました。主人公の行動が大勢に影響しないということでまるで『オリバー・ツイスト』のように本作を批判する向きもあったようなのですが、前線の若者たちの戦闘とオッサンたちの織りなす政治劇、それぞれの登場人物が己の置かれた立場で最善を尽くす様を真摯に描いた傑作大河ドラマと私は断言できます。逆にラコックがジオングやブラッカリィやストライクドッグやオージみたいなもんに乗ってダグラムに最終決戦を挑んできたら安っちくなったろうね、と思う。
こういう微妙な味わいのキャラ、極端を好む今のアニメでは絶対出せないでしょうな。アル・パチーノがしばしば演ずる負け組の男に通じる渋さです。不景気も20年にならんとする昨今、男の正しい負け方っちゅーもんを描いてみたい、描かねばならんと思う片羽なんですが、こんな昔のアニメにヒントがあったとは。


ラベル:ダグラム
posted by 片羽國雄 at 03:23| Comment(1) | アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月25日

『太陽の牙 ダグラム』(中編)〜信念と汗と〜

 『太陽の牙 ダグラム』最終回を観終えて熱い気持ちが残っているうちに後編中編を書いちまいましょう。『ダグラム』真の主役、政治劇担当の渋いオッサン達について!
 まずは植民惑星の独立を目指す解放軍のリーダー、サマリン博士。髪もヒゲも真っ白なお爺さんですが頑健そうな体躯と眼鏡の奥の鋭い瞳が頼もしげです。
 本作では悪者の地球側リーダーで主人公の父親、ドナン・カシム。こちらも白髪のお爺さんなのですが、為政者として地球人を飢えさせてはならんとの確固たる信念を持った支配者でした。
 オッサンに含めるのは疑問なのですが『ダグラム』で一番人気の悪役ラコック。金髪で眉目秀麗の白人青年です。前述のドナンの補佐官(秘書?)として登場するも独立戦争の進行に乗じて野望を露に権謀術数、両陣営をかき回し混乱に乗じて政府内での地位を手に入れて行きます。老獪なんだからオッサン扱いで問題はあるまい。片羽は彼の勝利で物語が終わると本気で思っていましたが、まさかあんな事になろうとは。
 ………とここまでは外せない主役級の、善悪は別にして己の信念をブレずに貫いた超人たちの紹介でした。しかし片羽の真のお気に入りはここから。ナンバーワンになりきれず、あるいは状況に迷い流され、果ては心折れ。そんな中年の悲哀感溢れる真のオッサン達を紹介していきます。
 まずはバックスさん。…本稿の中で一番地味で目立たない人物だと思いますが、サマリン博士の配下で武器の調達を手掛けていた、これまた白髪ですが壮健なオッサンです。線でしか描かれない細い(クリント・イーストウッドをイラストで描いたような)目に内面の安定が表れていて頼もしい感じです。物語終盤、絶望的な劣勢になった主人公と仲間たちを物心両面で支えてくれました。片羽はこんなオッサンになりたい!サマリン博士は無理でもバックスさんにならなれるかも…って甘いか。
 続いてはカルメル氏。小太りでドングリ眼に団子鼻のボンクラです。彼も解放軍の幹部だったのですが攻勢にあって組織の維持を重視する慎重な気質を策士ラコックに付け込まれそそのかされ、サマリン博士を更迭して解放軍のリーダーに収まり、前線の兵士そっちのけでラコックと和平交渉を始めます。そのため解放軍は勝機を逸して武装解除、主人公はダグラムを没収され、植民惑星はラコック主導で形ばかりの独立を与えられる羽目になります。全くアニメ史上に残る要らん事しぃです。
 しかし最終回でこのボンクラは輝きました。真の独立を願い抵抗を続けるダグラムチームはラコック指揮下の軍隊の猛攻に殲滅される寸前でした。しかし形骸であれ独立した国家での乱暴狼藉、露骨な内政干渉にカルメル氏も堪忍袋の緒が切れ、勇気を振り絞って配下の軍勢(解放軍は武装解除した筈だが残存戦力?)を出動させラコック側と対峙させます。結果、戦闘行動は一時中断し主人公と仲間たちは九死に一生を得、さらにここで予期せぬ出来事が発生して真の独立までもが達成されてしまうのです。
 カルメル氏が棚ボタで得た満貫の成果もさることながら、片羽が凄いと思ったのは彼がラコックとの対決を決断する最終回の1シーン。電話越しのラコックとの直接対決でいいようにあしらわれてしまうのですが、その直後滝のように汗を流しながらしばし逡巡し、再び電話の受話器を取ると配下の軍隊に出動を命じます。いや顔の汗が本当に凄いのです(表情の作画も凄いですよ)。全くアニメ史上に残る汗っかきです。
 ここまで迷い続け判断を誤り続けたオッサンには片羽も非常に親近感を覚え……たくなかったのですが、シナリオに常々求められる「葛藤」というものを見事な汗で見せてくれたのと、最後に拾ってしまった大金星に免じて、カルメル氏も片羽のエイジングの一指標とすることにします。
 さてカルメル氏で熱くなりすぎました。どうしても語らねばならないオッサンがもう一人いるというのに、です。賢明な読者の皆様はもう誰のことかわかりますね。…ではまた明日…
ラベル:ダグラム
posted by 片羽國雄 at 04:51| Comment(0) | アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月24日

『太陽の牙 ダグラム』(前編)〜なつのおもいで〜

 ここ1ヶ月以上かけて観ていました………『太陽の牙 ダグラム』のDVD。
 実に30年前、1981年から1983年に本放送されたロボットアニメなんですが小学生の頃、毎年夏休みになると朝10時ぐらいからの「夏休みマンガ劇場」みたいな枠で再放送されていました。全75話のアニメを夏休み、それも平日だけで全部放映できた筈がないのですが、ともあれこの暑さが片羽に少年時代の夏の記憶を呼び起こさせたのかも知れません。どうせ筆も乗らないし昔のアニメ観ながら部屋に大量死蔵していたガンプラでも作るかとシナリオライターにあるまじき大罪「ながら見」を始めてしまいました。GEOで100円で借りられるDVD1巻に5話ずつ収録で全15巻。都合25時間。なんとコストパフォーマンスに優れた暇つぶしではありませんか。
 しかし話が進むごとにガンプラ作りの手が滞る片羽。この30年前の古臭い画質のアニメが、面白いのです!深いのです!重いのです!
 ごく大雑把に『ダグラム』を説明いたしますと地球の植民地である惑星の独立を目指し、強力なロボット兵器・ダグラムを駆る少年が圧政者=地球人の軍勢相手に戦い抜くというストーリーで、陸戦と政治劇をメインに独立戦争の一部始終をNHK大河ドラマ並みのスケールで描いた壮大な群像劇です(詳しい作品解説はWikipedia参照)。
 まずロボットアニメの命と言えるロボットのデザインと戦闘シーンですが、設定が煮詰められてないですね。ダグラム他敵味方のロボットが陸戦専用の重厚なデザインで動作音も重たい感じなんですが、戦闘になると華麗なジャンプ合戦で違和感ありまくりです。あとダグラムは何発撃たれても傷一つ付かないのに、他のロボット達は一発の被弾で即大爆発というのもリアリティがない。後発の『装甲騎兵ボトムズ』に比べてもロボットの描写にムラが大きいのは否定できません。
 と、ここまで今時のオタク的に難癖付けましたが、しかし画面を見ている分には楽しい!ダグラムが暴れて敵ロボをぶち殺す様は理屈抜きに楽しいのです。
 そうだ、ロボットアニメなんてこんなんでいいじゃないか。細かなメカ設定とか主人公の出生の秘密とか世界観の謎解きとか萌えとかそんなものシコシコ追求する奴はアホだ!…自称シナリオライターの私がそれぐらい開き直れてしまう魅力が『ダグラム』の戦闘シーンにはありました。
 さて、私の心を捕らえたものがもう一つありました。本作は陸戦と政治劇がメインだと前述しましたが、主人公たち若い戦士は当然陸戦担当です。常に最前線でロボット乗り回し鉄砲撃ってます。では政治劇の方はと言うと、渋いオッサン達の出番です。善玉も悪玉も身なりと恰幅の良いオッサン達が大人の駆け引きというものを見せてくれます。当時の子供はそんなもんさぞかしつまらなかったと思いますが、アラフォーの片羽はオッサン達の心の機微がわかってしまうので非常に楽しめたのです。
 というわけで次のダグラム回は片羽の気になったオッサン達について。こういう男になりたかったりなりたくなかったり………
ラベル:ダグラム
posted by 片羽國雄 at 03:11| Comment(0) | アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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