2015年10月11日

『ブレイキング・バッド』(後編)〜男がスポーツカーを買ってしまう日〜

1007_BB02_01.jpg

『ブレイキング・バッド』というドラマの新鮮さは刑事ものなら押収品、ギャングものでは商材といわゆるマクガフィンでしかない違法薬物そのもの、そして製造過程にスポットを当てた点にあると言えます。まあテレビは普通怖がってやらない題材ですしAMCはケーブルテレビだからやれたというだけの話なんでしょうけど。
禁制品とはいえ原料・設備を知恵と勇気で調達し、品質・数量をストイックに管理する“ものづくり”の楽しさ。そこがこのドラマの芯でありウォルターの行動原理にもなっています。重罪だとわかっている。散々怖い思いもする。そもそも生活のために仕方なく始めたことである。だけど製品が上手くできれば嬉しいし失敗すれば悲しい。いつしかお金儲けを超えて物を作ることそれ自体につい意地になってしまう。
真保裕一の『奪取』とか映画『戦場にかける橋』なんかでも描かれる心理ですが、人間誰しも多かれ少なかれそんな職人魂めいたこだわりの部分があって、ブラック企業に勤めて明日なき日々を送っていてもその日その日の仕事にはどうしても魂を込めてしまうものです(まあそんな魂も経営者に搾取されて格差拡大に貢献するだけなんで程々にしとくべきなんですが)
くれぐれもダメ、ゼッタイなんですが日本人ならばウォルターの真摯な“ものづくり”には非常に共感できると思います。

もう一つ。本作は意外にも社会派です。今のアメリカ人の貧困という状況が物語の前提にありまして、プール付きの一戸建てに住んで一見中流のウォルターは相当ギリギリの生活してて高校が休みの日は近所の洗車場でアルバイトしなくてはいけませんし、街中の人々がそんな飢渇寸前の状態で生きています。さらに高額医療費も経済難に拍車を掛けます。
そんな中羽振りが良いのは薬物の売人だけで、ウォルターが悪事に手を染めた最初のきっかけも街で高級車を乗り回す元教え子のジェシーがメスを密造していると偶然知ったからでした。
ウォルター&ジェシー以外にも薬物の売人や元締や殺し屋といった犯罪者が多数登場する本作ですが、各々に大切に思う家族が設定されており悪事の動機も家族を養うためだったのだと描き込まれています。正論で言えばダメ、ゼッタイなんですけど、じゃあ彼らを責めることができるのかという重い問いかけがそこにあります。

1007_BB02_22.jpg


重くなりましたが本題のミニカー2台。Greenlight Hollywoodシリーズ9としてリリースされたダッジチャレンジャーとクライスラー300です。実のところ物語終盤の佳境に入るちょっと手前で登場する、出番は決して多くない車たちです。Greenlightの有り型で作れるから作ったに過ぎないのでしょう。
『ブレイキング・バッド』で最も活躍した車と言えば前回のバウンダーとウォルターのポンティアック・アズテック(SUV風ファミリーカーです。史上最も醜い車らしい!)、ジェシーのトヨタ・ターセル(スプリンターカリブ)なのですがアズテックとターセルも新規金型でミニカー作ってくれるんでしょうか!?

とはいえこのチャレンジャーとクライスラー300、ウォルターが守勢から攻勢に転じる一瞬の間隙に登場した小道具として大変印象深いです。

1007_BB02_20.jpg
GREENLIGHT 1:64scale
2012 Chrysler 300 SRT-8 Breaking Bad
グリーンライト 1/64
2012年式クライスラー300 SRT-8
ブレイキング・バッド

1007_BB02_12.jpg
1007_BB02_13.jpg
1007_BB02_14.jpg
1007_BB02_15.jpg
1007_BB02_16.jpg
1007_BB02_17.jpg
1007_BB02_18.jpg
1007_BB02_19.jpg

シリーズ最強の敵を倒して小康を得たある日、ウォルターはそれまで乗ってきたアズテックをタダ同然の値段で売却します。ガタは来てても長年生活必需品の足車として大事に乗ってきた、また一連の悪事の犯行車両として数々の危険を共にしたアズテックを呆気なく手放してしまうのです。
そして体に障害を持つ高校生の息子にチャレンジャーを与え、自分はクライスラー300に乗り換えます。もちろんメスで稼いだお金でです。国税局に目を付けられるのを恐れてリース車にしたのですがそれでも安くはなかったでしょう。
これが契機だったかのようにこの後ウォルターは羽目を外した荒稼ぎに入り、物語はクライマックスに突入していきます。
並み居る悪党相手におっかなびっくりで悪事を働いてきたウォルターが一転、欲しいもの全てを手に入れんと積極的に動き出す。野心を露にし悪の才能を本気で開花させる。その変化がファミリーカーのアズテックからチョイ悪なスポーツカーのクライスラー300への乗り換えで物凄く浮き彫りになっていました。

1007_BB02_02.jpg
日本だったらクラウン・アスリートでしょうか?


1007_BB02_21.jpg
GREENLIGHT 1:64scale
2012 Dodge Challenger SRT-8 Breaking Bad
グリーンライト 1/64
2012年式ダッジ・チャレンジャー SRT-8
ブレイキング・バッド
 
1007_BB02_04.jpg
1007_BB02_05.jpg
1007_BB02_06.jpg
1007_BB02_07.jpg
1007_BB02_08.jpg
1007_BB02_09.jpg
1007_BB02_10.jpg
1007_BB02_11.jpg

では脇目も振らず荒稼ぎに入ったのかというとそうでもなく、この時期のウォルターは強敵との戦いから解放されて脱力気味でした。逆にしばらく忘れていた肺ガンのことが気になったりする。そして手元にはここまでの悪事で稼いだ小金が残っていました。
そんな解放感と不安の狭間で、いつまで寄り添ってやれるかわからない息子にこの際最新のスポーツカーを与えてやろう、ついでに自分も今まで縁のなかったスポーツカーに乗ってみようと思ったわけですね。2台のスポーツカーで表現されたあまりに悲しい親心・男心でした。

今回の2台のミニカー、主役級とは言いかねる車を有り型で作ったとはいえ心の琴線に触れるセレクションでした。
『ブレイキング・バッド』はカースタントが売り物の作品ではありませんし出てくる車種も地味な実用車が多いのですが、登場人物の心情が車を通して描かれた名場面が多いです。さすがアメリカです。
日本も都心在住ならいざ知らずちょっと郊外に出ればクルマ社会ですから、国内ドラマでも車をもっと有機的に演出に活かせないものかと思います。派手なスタントで壊さなくても生活のパートナー感をもっと出せば人物描写に深みが出るのではないかと。

1007_BB02_03.jpg
フリンはパパのくれたチャレンジャーを
喜んで乗り回していたのですが、
それだけにその後辛い思いをしただろうと
胸が痛みます。



最後の最後はネタバレで締めくくらせていただきます。↓↓↓色々ありまして最終話。超怒涛の展開の最中、わずかな告解の時間を得たウォルターですが「全て家族のためだったのでは?」と問われると寂しげに微笑んで答えます。

「全て自分のためだった。実に楽しく、生きている実感があった」

シビれましたね。まるで黒澤明の『生きる』(1952)じゃないですか!ダメ、ゼッタイですけど。

1007_BB02_24.jpg


posted by 片羽國雄 at 13:38| Comment(0) | ミニカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。